HDRについて その1


HDRについて、基礎からわかりやすく解説していきたいと思います。

HDR対応の再生機器が広く普及している一方で、一般の視聴者におけるHDRの認知度は、まだそれほど高くありません。また、映像制作者の間でも、HDRが十分に理解され、効果的に活用されているとは言い切れないのが現状です。

本記事が、皆さまにHDRへの理解を深めていただくきっかけとなり、その特長を生かしたコンテンツ制作につながれば幸いです。

そもそもHDR(High Dynamic Range)とは、映像で表現できる明るさの幅(ダイナミックレンジ)や色の表現領域を拡張する技術です。

HDR映像を本来の品質で視聴するには、スマートテレビやディスプレイなどのHDR規格に対応した再生環境と、HDR向けに制作されたコンテンツの両方が必要です。

それでは、実際のHDR映像をご覧いただきましょう。

……と、その前に、お使いのブラウザとディスプレイがHDR表示に対応しているか確認してみましょう。

下の「1. HDR 300 nits」と「2. SDR 100% White」を切り替え、白の明るさを比較してください。画面上のボタン、またはキーボードの「1」「2」キーで切り替えられます。MacBookやスマホでご覧になる場合は、ディスプレイを最大輝度に設定すると、より正しいHDR再生環境になります。

「1. HDR 300 nits」のほうが明らかに明るく見える場合、お使いの環境ではHDRが正しく表示されている可能性が高いと考えられます。

両者の明るさにほとんど差が見られない場合は、ブラウザ、OS、またはディスプレイがHDR表示に対応していないか、HDR表示が有効になっていない可能性があります。その場合、これ以降の画像比較も意図したとおりに再現されません。

HDR表示に対応したiPhoneやAndroidスマートフォンをお持ちの場合は、そちらでもお試しください。

「1. HDR 300 nits」は、HDR対応環境において、白を300 nitsの輝度で表示するよう設定した画像です。一方、「2. SDR 100% White」は通常のSDR静止画で、白の各RGBチャンネルが8 bitの最大コード値である255に設定されたJPEG画像です。

SDRの基準白は、制作環境では一般的に100 nitsを基準とします。ただし、一般的なテレビやパソコン用ディスプレイでは、SDRの白が100 nitsより明るく表示される場合があり、200 nits前後になることもあります。

そのような環境でも、「1. HDR 300 nits」の白が「2. SDR 100% White」より明るく見えれば、HDR画像がHDRとして再生されている可能性が高いと判断できます。ただし、実際の見え方は、ディスプレイの明るさ設定、OSやブラウザのHDR設定、周囲の明るさなどによっても変わります。この比較は、HDR再生環境を簡易的に確認するための目安としてご利用ください。


それでは、HDR対応環境をお使いの方に向けて、実際のHDR画像をご覧いただきましょう。

少し複雑ですが、比較用に次の4種類の画像を用意しました。

  1. SDR(ACES)
    ACES 2.0のパイプラインで制作した、通常のSDR画像です。
  2. SDR(ACES in HDR)
    1と同じ見た目になるよう、SDR画像をHDR用のフォーマットに格納したものです。
  3. HDR(ACES)
    ACES 2.0のパイプラインで制作したHDR画像を、HDRとして表示しています。
  4. HDR(Scene)
    カメラで撮影したシーンの色情報をできるだけ維持しながら、HDR画像へ変換したものです。

先ほどと同じように、画面上のボタンまたは数字キーで画像を切り替え、違いを比較してみてください。画像をクリックすると、ブラウザ内で拡大してご覧いただけます。拡大状態では、数字キーに加え左右の矢印キーでも画像を切り替えられます。

いかがでしたでしょうか。


「1. SDR(ACES)」は、皆さんが普段から見慣れている通常のSDR画像です。

「2. SDR(ACES in HDR)」は、1と同じ色になるように作られていますが、再生される仕組みが異なるため、両者の見た目には大きな明るさの差が生じています。

「1. SDR(ACES)」はSDR画像として表示されます。SDR表示では、画像の白がディスプレイの設定に応じた明るさに割り当てられるため、一般的な環境では最も明るい白が200 nits前後で表示されることがあります。

一方、「2. SDR(ACES in HDR)」はHDR画像として再生されます。HDRでは、画像に設定された輝度を実際の表示輝度に対応させる形で再生されるため、この画像の最も明るい白は100 nitsとして表示されます。

つまり、画像が意図する色は同じでも、SDRとHDRでは白の明るさを決める仕組みが異なります。そのため、この表示環境では「1. SDR(ACES)」のほうが「2. SDR(ACES in HDR)」よりも明るく見える結果となっています。

なお、「1」の表示輝度はディスプレイの明るさ設定やOS、ブラウザなどによって変わるため、必ず200 nitsになるわけではありません。


「3. HDR(ACES)」は、HDR作品のグレーディングにおいて、ルックを作り込んでいく際の出発点となる画像です。制作者はこの状態を基準として、作品の意図に合わせて色や明るさを調整していきます。

「2. SDR(ACES in HDR)」と「3. HDR(ACES)」は、どちらもHDRの表示プロセスで再生されるため、この2枚を比べることで、表示方式の違いに影響されにくい、映像そのもののSDRとHDRの違いを確認できます。実際のDIスイートでも、SDRとHDRの見え方を比較しながら作品を仕上げていきます。

両者を比べると、中間の明るさであるミッドトーンには、それほど大きな差がありません。一方、明るい部分であるハイライトには明確な違いがあり、「3. HDR(ACES)」のほうが、光の強さや階調をはるかに豊かに表現していることが分かります。


「1. SDR(ACES)」と「3. HDR(ACES)」の比較は、一般の視聴者が実際に目にするSDR版とHDR版の違いとして捉えることができます。

同じHDR対応テレビを使用していても、HDR対応の視聴プランや再生環境で視聴する場合は「3. HDR(ACES)」に相当するHDR映像が表示されます。一方、SDRのみの視聴プランや再生環境では、「1. SDR(ACES)」に相当するSDR映像が表示されます。

両者を比較すると、「1. SDR(ACES)」は画面全体が明るく感じられるのに対し、「3. HDR(ACES)」は全体としてやや暗く見えるものの、明暗のコントラストが豊かで、特にハイライトの力強さや階調表現に優れていることが分かります。

なお、実際の見え方は、テレビの機種、画質モード、周囲の明るさ、配信サービスの仕様などによって異なります。


「4. HDR(Scene)」は、S-Log3/S-Gamut3.Cineで記録された色情報を、クリエイティブな色調変換を加えずにHDRフォーマットへ変換した画像です。HDRディスプレイ上に、撮影時のシーンの明るさや色をできるだけ忠実に再現することを意図しています。

「3. HDR(ACES)」との主な違いは、ACESの出力変換が適用されているかどうかです。ACESの出力変換には、映像をディスプレイ上で自然かつ好ましく鑑賞できるように、ハイライトや暗部、コントラスト、色域などを整える処理が含まれています。この処理によって、「3. HDR(ACES)」と「4. HDR(Scene)」の見え方に違いが生じます。

「4. HDR(Scene)」と比較すると、「3. HDR(ACES)」はハイライトをなだらかに抑えながら黒を引き締め、全体のコントラストをやや強めた映像になっていることが分かります。


他のもう少し美しい映像で比較してみましょう。

今回は、SONYのPan- European Imaging Products & Solutionsに使用許諾をいただき、VENICE 2 8K X-OCN Downloadのコンテンツを利用させていただきました。

やや暗かったので、+1EVの補正をさせていただきました。その他の調整は行っていません。

いかがでしたでしょうか。

全然基礎じゃないじゃないか、という文句も聞こえてきそうですが、制作者と視聴者をつなぐためには理解しておく必要がある内容だと思ったので、長々と解説させていただきました。

次回は、今回使用した映像をどのような手順で用意したか、技術解説を行う予定です。